医王いろいろ閑話
2021年7月2日 20:51
劇団・水族館劇場『アントロポセン空舟』公演が終わって
NHKのEテレ(昔の教育番組チャンネル)に「ハートネットTV」という番組があります。障害者や貧困などのテーマを専門に取り扱うテレビ番組のようですが、宗禅寺駐車場で行われていた劇団・水族館劇場の『アントロポセン空舟』公演にNHK取材班が密着をされていて、昨晩その模様が放映されました。放送タイトルは「演じることは生きること~~野外芝居集団〝水族館劇場〟の日々~~」。劇団水族館劇場の劇団員の方4名にスポットをあて、それぞれの生き様を通して水族館劇場のことが紹介されている内容でした。
水族館劇場は野外芝居、路上芝居にこだわり活動を続けている劇団です。年末年始に公園等での路上芝居と、年に1回自ら劇場を設営して半月ほどの公演をしており、公演地が決まると集まれる人が集まり、劇場を自ら設営、公演、劇場を解体という流れを繰り返している劇団です。今回の宗禅寺での公演も4月2日から宗禅寺に集まり、5月14日に初日公演、5月31日に千秋楽、6月15日に劇場解体終了というスケジュールとなりました。
劇団員の皆様は日頃は自分のお仕事をしており、公演が決まると集まって準備をし、公演が終わるとまた自分の生活に戻っていきます。NHKの放送の中で座長の桃山邑さんが仰っている「有り余る才能を持っているわけじゃないけど」という言葉通り、プロの役者としての芝居というよりも、普通の生活をしている普通の人が役者をやって芝居をしている劇団であり、日常生活の延長線上にある芝居を体現されています。彼らが表現しているのは、本番2時間の舞台の上での芝居だけではなく、目の前にある自分たちで設営した劇場やその設営期間も含めて「劇場設営も芝居のうち」というもので、そこには芝居者としての生き様が投影されています。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、私自身も都合のつくときに出演させていただきまして、幕間の模様替えなど、客席からは見えない部分も間近で見させていただきました。驚いたのは、先ほどまで舞台の中央で芝居をされていた役者さんが、次のシーンでは煙幕に火をつけたり、緞帳を下げたり、回転舞台を人力で回していたりと、まさに八面六臂なことです。劇団員のお一人お一人が自分に与えられている役目をしっかりと、そして活き活きと果たしていくそのエネルギーに接し、彼ら自身の劇団に対する強い想いを感じた次第です。
もう一つの驚きは、公演中に脚本が変更されていくということでした。劇団の芝居というモノは毎日同じものが観れると思っていたのですが、水族館劇場に関してはこの考えが通じません。14回の公演で一体何回脚本の手直しが入ったかは知りませんが、前日には見られなかった役者さんの歌の独唱があったり、その舞台は日に日に変化し続け、その変化があるからこその緊張感があったように思います。毎日毎日一つの決まった場所に留まることなく、常に前を向いて、少しでもより良い舞台を作っていこうという姿勢がそこにはあるのだと思いました。
水族館劇場の皆様は芝居という形を通じて、普通の人間の持っている可能性を示してくれました。どんな人でも、そこに生きているだけで周囲の人々を幸せにできる力を持っていることを証明してくれました。水が持っている可能性が、確実に我々を潤してくれた二カ月半であったように思います。
最後になりますが、今回の14公演にて1025人の観客を動員。お客様はもちろん、劇団関係者の皆様にもコロナ感染者が一人も出ずに公演が終われましたことに安堵しております。4月1日の設営開始から6月15日に舞台撤収完了まで本当にありがとうございました。今回の公演にあたりまして、コロナ禍にありながらも公演を受け入れて下さいました、第二駐車場の近隣の住民の皆様方にここで深く感謝を申し上げます。そして、応援をして下さいました皆様方もありがとうございました。
臨済宗中興の祖 白隠慧鶴禅師 『坐禅和讃』曰く
「無相の相を相として」(形なき形を形とする)
水族館劇場 座長 桃山 邑 氏 曰く
「永遠の未完成これ完成なり」
また来年の5月に彼らはやってきてくれます。その日までお楽しみに。
宗禅寺 高井和正